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生命を見つめるフォト&エッセー

受賞作品

第4回エッセー部門

第4回入賞作品 − 小学生の部 
優秀賞

「私のお兄ちゃん」

戸田 智咲(8)富山県

「さあ、おまいりに行くよ。」

 朝からパパが言いました。今日は、8月10日です。私は毎月10日、おばあちゃんの家に行ってお仏だんに手を合わせます。おそなえはおかしやフルーツです。おまいりの後はこのお下がりをもらえるので、10日がくるのがちょっと楽しみです。

 でもふと、なんで毎月10日におまいりに行くのだろう?と、ぎ問がわきました。その日、ママにわけを聞くと、ママは、
「智咲のお兄ちゃんの月めい日だからよ。」
と、教えてくれました。めい日って何? さいしょ、ママの言葉のいみが、まったくわかりませんでした。

 私は三人きょうだいの一番上で、6才の弟と3才の妹がいます。弟たちは私を「お姉ちゃん」や「ねーね」と呼んで、したってくれます。私も弟たちといっしょに遊ぶことが楽しいです。でも、弟たちとは、ときどきけんかもします。そんなときは、
「お姉ちゃんなんだから、ゆずってあげなさい。」
と、言われます。また、ママからもたよられ、
「お姉ちゃんなんだから手伝って。」
と、手伝うときもあります。そんなときは、
「好きでお姉ちゃんになったわけじゃないのにな。私にもお姉ちゃんかお兄ちゃんがいたらよかったのに。」
と、思っていました。

 でも、おまいりに行くわけをママに聞いて、本当は私にも「てんせい」という名前のお兄ちゃんがいたことを知りました。てんせい兄ちゃんはママのおなかの中にいるときに「たいじすいしゅ」というびょう気にかかってなくなったそうです。だから、私たちが元気にそだっていることをほうこくするために、毎月おまいりしているのだと聞いて、なっとくしました。

 私にもお兄ちゃんがいたのです。なくなった? えっ? どうして? びょう気? 私は元気に生まれて、毎日楽しく生きているのに、元気に生まれてこられないいのちがあるのだと、知ったときはショックでした。みんな、元気に生まれてくるものだと思っていました。てんせい兄ちゃんは、小さな小さな体で生まれてきたそうです。おおよそ500グラムで、うぶ声をあげることもなく、パパやママは、とてもかなしんだんだよ、と教えてくれました。

「お兄ちゃん、おたん生日おめでとう。今日で10才だったんだね。いっしょに遊んでほしかったよ。これからも私たちのことを見守っていてね。」
と、私は心の中で言いました。おまいりのわけを聞いた日は、お兄ちゃんの10回目のおたん生日だったのです。毎月10日、これからも家ぞくでおまいりにいこうと思います。

(敬称略・年齢、学年などは応募締め切り時点)
(注)入賞作品を無断で使用したり、転用したり、個人、家庭での読書以外の目的で複写することは法律で禁じられています。

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