生命を見つめるフォト&エッセー

「第5回生命いのちを見つめるフォト&エッセー」各部門の受賞作品をご覧いただけます。

第5回フォト部門

※画像をクリックすると拡大表示されます。

一般の部

厚生労働大臣賞
「きみだあれ」
市川 清一
(青森県)
日本医師会賞
「至福の時間」
下須賀 誠
(岡山県)
読売新聞社賞
「誕生」
佐野 公彦
(奈良県)
審査員特別賞
「高いたかーーーい!」
秋澤 真希子
(埼玉県)
審査員特別賞
「春の一番」
入江 貴史
(北海道)
審査員特別賞
「秋の縁側」
達下 才子
(岩手県)
入選
「爆笑」
伴 光藏
(滋賀県)
入選
「スイカ食べるの初めてなの」
植村 真希
(神奈川県)

小中高生の部

文部科学大臣賞
「田舎の秋」
藤枝 祐美
(千葉県)
優秀賞
「猫の数珠つなぎ」
安田 礎就
(兵庫県)
優秀賞
「生命」
山本 遥貴
(神奈川県)
優秀賞
「おしてあげる」
長谷川 涼太
(北海道)

審査員からのひとこと

野町和嘉(写真家/日本写真家協会会長)
野町和嘉(写真家/日本写真家協会会長)

 全体的な感想として、前回までの応募作品には、可愛さや絆、人と人のつながりといったテーマが多かったですが、今回は異色の写真もあり、写真の深さを感じました。毎回思うことですが、エッセー部門では命と向き合ったシリアスなテーマが主流であるのに対し、写真の場合はどちらかというと、生命賛歌といったポジティブな写真が多く、エッセーとフォトのこのバランスがいいですね。でも、エッセーに見られる、生命と向き合う一歩踏み込んだ写真作品がもっとあってもいいと思います。

 厚生労働大臣賞「きみだあれ」は、動物の写真の中では一番気に入った心温まる作品です。子ヤギが膝をついて赤ちゃんと向き合っているその表情には好奇心と愛らしさがあふれています。2頭のヤギと赤ちゃんとの構図もよく、家畜小屋の奥行きも感じられます。

 日本医師会賞「至福の時間」は、本格的な水垢離みずごりの衣装を着けた迫真の一枚です。お孫さんでしょうか、ふたりの子どもに健やかに育ってほしいと願う、おじいちゃんの切実な気持ちがあふれています。子どもたちが将来この写真を見ることで、家族の絆を改めて感じる機会となるなら素晴らしいことです。

 読売新聞社賞「誕生」は、奈良公園で捉えた珍しい鹿の出産のシーン。深緑の背景の中、ごく普通の公園の片隅で、決定的な誕生の場面に出会えるなんて何という幸運でしょう。母鹿が出産後の羊膜や胎盤を食べるのは、そのにおいが外敵を呼ぶからだそうです。

 審査員特別賞「高いたかーーーい!」は、寝そべって下から撮影し、ワイドレンズで空を大きく写したことで広がりのある伸びやかな作品になりました。流れる雲と子どもの笑顔が素晴らしい。

 「春の一番」は、北海道の原野でキツネの子どもが取っ組み合う珍しい情景です。野生のキツネによくこれだけ近づけたものと感心しました。童話の世界のような心温まるシーンです。

 「秋の縁側」は、農村の縁側で連綿と受け継がれているごく日常のシーン。やや古ぼけた障子が生活感と温もりを感じさせます。柿をむくおばあちゃんの手つきが素晴らしい。

 文部科学大臣賞「田舎の秋」は、倉庫の片隅にひっそり隠れ、途方に暮れている情景に違いありません。親鳥と出会えたのか、無事に育ってくれたのか、行く先を考えさせられる一枚です。

岩合光昭(動物写真家)
岩合光昭(動物写真家)

© Iwago Photographic Office

 全体的な感想として、この大変な時代だからこそ撮れる写真があると思いました。大切なものや、愛しいヒトを思う気持ちが、みなさんの写真からあふれてました。元気をいただきました。ありがとうございます。

 厚生労働大臣賞「きみだあれ」は、生き物同士、それも小さい者同士の触れ合いには頬が緩んでしまって、評価などどうでも良くなります(笑)。幼子と幼いヤギが見つめ合う瞬間を捉えることで、たまらない可愛さと小さい者たちの世界を感じさせる写真です。

 日本医師会賞「至福の時間」は、初めての驚きや戸惑いも、信頼する大人がいることで素晴らしい経験に変わります。水のしぶきと、男性の力強い肉体と笑顔。この子どもたちがいつか大人になる。そんな時の流れまで感じさせる写真です。

 読売新聞社賞「誕生」は、自分も奈良公園で鹿をかなり撮影したので、いかにこの写真を撮るのが大変か、珍しいかが分かります。撮れそうでなかなか撮れない写真。生き物の誕生が人の心を震わせる、感動を呼ぶ写真です。

 審査員特別賞「高いたかーーーい!」は、青空の下、陽の光を浴びて、高い高いをしてもらう子の表情が愛くるしく、足元から仰いだアングルが、持ち上げるヒトをたくましい巨人のように見せています。嬉しそうな笑い声が聞こえてきそうな写真です。

 「春の一番」は、キツネ同士がハグしており、表情も良いです。きっと巣穴のすぐそばだと思われますが、安心した表情をしています。愛・絆が見て取れます。

 「秋の縁側」は、柿の皮を1枚でむいているのはなかなか見ないです。熟し柿は柔らかいからむきづらく、相当な技術だと思われます。

 文部科学大臣賞「田舎の秋」は、おそらくまだ羽がしっかりしていない巣立ったばかりのスズメが、少し緊張した様子で、「見つからないといいな」というような表情で軒下にいます。一方で、撮影者はスズメを気遣って、そっと近付いて捉えています。生き物を大切にする、撮影した時の気持ちが伝わってきて、小スズメの命の大切さを感じます。

上白石萌歌(女優)
上白石萌歌(女優)

 全体的な感想として、それぞれの作品から強いメッセージを受け取り、私自身も生命について深く考えるきっかけをいただきました。写真というものは、時に言葉を超えるほどの威力があるなと感じました。次回も、写真の可能性を感じさせてくれるような作品を期待しています。

 厚生労働大臣賞「きみだあれ」は、小さな子どもと子ヤギが通じ合っているように見える構図が奇跡的で微笑ましいです。人間と動物で、姿かたちや流れる血が異なっていても、そこには確かに同じ時間が流れているのだなと感じる作品です。

 日本医師会賞「至福の時間」は、水しぶきや声がこちらまで飛んできそうなほど、躍動感のある一枚だと感じました。背景の暗いトーンに真っ白なふんどし行衣ぎょういが鮮やかに映えていて、力強い印象を受けます。伝統や継承などのテーマも感じました。

 読売新聞社賞「誕生」は、生命の誕生というものについて、深く考えさせられる一枚です。この尊い瞬間に立ち会い、捉えることができたことが素晴らしいなと感じます。小鹿を見つめる親鹿の目がとてもたくましく、物語の序章を感じます。

 審査員特別賞「高いたかーーーい!」は、発想や構図がとてもユニークで、目にした瞬間引き込まれました。一枚のほとんどを青色で埋め尽くすことで、空の雄大さが素敵に表現されていると思います。希望や羽ばたき、無限の可能性などのメッセージを感じる作品です。

 「春の一番」は、どこをとっても愛らしい一枚で、春の訪れの喜びがうまく表現されていると感じました。まるでキツネたちが抱擁しているように見え、絵本のような世界にときめきます。

 「秋の縁側」は、縁側にぶら下がった干し柿の色がこの写真全体に穏やかな印象を与えており、日本の四季の移ろいの美しさを感じさせてくれる作品です。自然な表情をうまく捉えていているのも素敵です。

 文部科学大臣賞「田舎の秋」は、日常の何気ない瞬間を切り取ったようなラフさが良く、生活の香りのするような作品です。スズメの潤んだつぶらな瞳をよく捉えていて、小さくとも豊かな生命を感じます。

第5回エッセー部門

※タイトルをクリックすると作品が表示されます。

一般の部

厚生労働大臣賞
「今を生きる~息子を看取って~」
山本 悦子(三重県)
日本医師会賞
「「わたし」の肯定」
小松﨑 有美(埼玉県)
読売新聞社賞
「傷のある看護師さん」
大西 賢(東京都)
審査員特別賞
「生命の止まり木」
田島 瑞生(埼玉県)
審査員特別賞
「「もうええか?」」
長濱 京香(大阪府)
入選
「くじびきの神様」
中道 瑞葉(埼玉県)
入選
「最後の晩餐ばんさん
鈴木 綾子(徳島県)
入選
「生命守られて」
鈴木 久子(京都府)
入選
「たしかに想いは紡がれている」
金田 紀子(大阪府)

中高生の部

文部科学大臣賞
「私を救った「魔法」」
黒田 怜那(東京都)
優秀賞
「祖父と共に」
日野 乙葉(愛媛県)
優秀賞
「生きているということ」
稲葉 愛理(北海道)
優秀賞
「祖父の最期」
岡田 歩(長野県)

小学生の部

文部科学大臣賞
「やわらかいおむすび」
横山 紗来(兵庫県)
優秀賞
「わすれられないきょうふのきせき」
鳥澤 颯斗(大阪府)
優秀賞
「今まで ありがとう」
岡田 藍生(岐阜県)

審査員からのひとこと

養老孟司(東京大学名誉教授/解剖学者)
養老孟司(東京大学名誉教授/解剖学者)

 例年通り今回も力作が多く、選考はなかなかつらかった。感動的な作品が多く、それにかれていると選考ができなくなるので、できるだけ客観的になるよう努めるわけだが、それはあまり良いことではないような気がしてくる。

 入選作には、当然ながらやはり多くの委員からの推薦が集まった。知情意のバランスが良いものが結局は入選作になったという気がしている。意とは将来へ向けての楽観というか、明るさであり、それがあると救いにもなる。知に働けば、角が立つ。情にさおさせば、流される。とかく文章は書きづらい。

玄侑宗久(作家/福聚寺住職)
玄侑宗久(作家/福聚寺住職)

 コロナ禍が始まってから2度目の審査会になる。前回、マスクをしたままで講評や感想を述べるのはかなり難しいと知ったので、いきおい事前の読み込みが念入りになった。コロナの影響でひどい目に遭った本人も応募してくださり、何人かが最終選考に残っていた。個人的にはとても教えられることが多く、過酷さに同情することも屡々しばしばだったが、やはり世の中は広い。マスコミではコロナの陰に隠れてしまうが、多くの人々に知ってほしいドラマは山ほどある。

 こんな非道ひどいことが、と驚くこともあれば、てたもんじゃない、と安堵あんどすることもある。奪われた体験もあれば、大いなる獲得の話もある。書くことで本人が鎮まり、次に展開するような文章を来年も期待したい。

水野真紀(俳優)
水野真紀(俳優)

 今回も幅広い年代の方からご応募頂きました。パソコンで打った文字は読みやすいのですが、手書きの字から書き手を想像する楽しさもあります。いずれにせよ、審査対象は作品ですので、お好みのスタイルでご応募下さいね。

 入賞作品に共通しているのは「読ませる力がある」ことでしょうか。それは、文章構成の力にる、、、だけではなさそうです。ハッと気づかされる言葉や、作品の中に生きる人に心をつかまれる瞬間があるのです。

 経験を文章化することが誰かの救いになるかもしれません。書きつづる日々が気持ちを整理してくれることもあるでしょう。心が揺さぶられる作品との出会いを楽しみにしております。

PAGE TOP