生命を見つめるフォト&エッセー

「第7回生命いのちを見つめるフォト&エッセー」各部門の受賞作品をご覧いただけます。

第7回フォト部門

※画像をクリックすると拡大表示されます。

一般の部

厚生労働大臣賞
「熱烈大好き」
達下 才子
(岩手県)
日本医師会賞
「ちからをあわせて!」
松政 亜美
(大阪府)
読売新聞社賞
「桜の木の下で」
古賀 美奈
(熊本県)
審査員特別賞
「歓びの舞」
遠山 薫
(北海道)
審査員特別賞
「穏やかな日」
安野 文子
(香川県)
入選
「スズメのカップル」
石山 正昭
(愛媛県)
入選
「小さなお田植協力者」
山口 元広
(福島県)

小中高生の部

文部科学大臣賞
「みんなでジャンプ!」
石川 那奈
(大阪府)
優秀賞
「見つかっちゃった!」
福島 一誠
(埼玉県)
優秀賞
「いつまでもずっと」
櫻井 みなみ
(茨城県)
優秀賞
「鳩の巣づくり」
坂元 紀葵
(千葉県)

審査員からのひとこと

熊切 大輔(日本写真家協会会長)
熊切 大輔

 生命という大きなテーマをそれぞれの解釈で、それぞれの被写体でバラエティに富んだ作品を拝見することができました。日常の中の幸せ、喜びとその瞬間を素直にうまく切り撮った作品が多く審査も楽しく行えました。

 厚生労働大臣賞「熱烈大好き」は、本当に誰しもが見るような日常的光景。孫とおじいちゃんの微笑ましい一コマです。しかしその表情が魅力的です。それぞれが本当に楽しそうで生き生きとしています。子ども達の純粋な笑顔に比べておじいちゃんのちょっと困ったような嬉しいような複雑な表情がなんとも言えません。平凡な身の回りでも良い瞬間を(とら)えれば素敵な作品になりうるのです。

 日本医師会賞「ちからをあわせて!」は、とてもおしゃれな子ども達が車椅子のご老人を力を合わせて力いっぱい押しています。その一生懸命さがよく伝わる作品です。その動きで子どもたちの純粋ないたわる思いが伝わってくるようです。被写体は組み合わせでストーリーが変わってきます。ご老人と子供という両極な登場人物が世代を超えた(きずな)を強く感じさせてくれます。

 読売新聞社賞「桜の木の下で」は、春満開のベストなタイミングでのファミリーフォトとなりました。花に包まれるようなフレーミングはいわゆる額縁構図で被写体を華やかに縁取って、作品を見るものの視線を誘導できています。階段が生む対角線をうまく使いピンクと黄色の色の分割をうまく見せています。春の暖かさや空気感を感じられる作品になっています。

 審査員特別賞「歓びの舞」は、一瞬を切り撮る、写真ならではの表現です。ここには二つの瞬間が写っています。二羽の海鳥の羽ばたきはその瞬間両側に広がりシンメトリックな形を作りました。更に水の表情は岩にぶつかった飛沫が力強い形を作っています。それらを美しい光線が照らしており、様々な瞬間がまとまった、奇跡的な一コマと言えるでしょう。

 審査員特別賞「穏やかな日」は、被写体のご夫婦の距離感、信頼関係が見るものに伝わるような作品表現です。人が積み重ねてきた人生にはそれぞれストーリーがあります。写真はそんな目に見えないものを写し出すのではないでしょうか。平坦ではない道のりを歩き続けるにはパートナーのサポートが欠かせません。そんな人生そのものが写っている気がします。

 文部科学大臣賞「みんなでジャンプ!」は、子ども達の撮るピュアな目線にはいつも驚かされます。孫とおじいちゃんでしょうか。高さのない倒木の上からのジャンプですがお孫さんは少し躊躇(ちゅうちょ)しているように見えます。しかしおじいちゃんは「こうやって飛ぶんだぞ!」と見本になるように大きくジャンプ! この後大丈夫だったか心配です。後ろ姿でもそんなストーリーを雄弁に語ってくれています。

 「生命」という強いテーマは説明的になりがちです。生命から何を感じるのか、どんなメッセージを伝えたいのか。テーマを深掘りしアレンジすることで被写体の幅も表現の手法も、もっと大きく広がっていくでしょう。多種多様な作品を期待しております。

岩合光昭(動物写真家)
岩合光昭

© Machi Iwago

 このコンテストの趣旨であり、目的でもある「生命を見つめる」ということを、みなさんよく考えながら撮影されています。穏やかで微笑ましい作品が多く、見ているこちらの気持ちまで温かく豊かになりました。

 厚生労働大臣賞「熱烈大好き」は、笑顔が絶えない家族なのでしょうね。いきいきとした3人の表情、撮影者の笑顔も見えるようです。込み入ってぐちゃぐちゃになりそうな場面を、あえて大胆に踏み込んで撮った画面構成が秀逸です。見事なシャッターチャンスが、力強い作品にしています。

 日本医師会賞「ちからをあわせて!」は、掛け声が聞こえてきそうな子供たちの活気に、車椅子のご婦人の穏やかな笑顔、それを静かに見守る保護者の方。生命をつなぐ動と静とを、見事に表現しています。やさしい世界を壊さぬよう、距離をおいて撮影をした撮影者の姿勢も好ましいです。

 読売新聞社賞「桜の木の下で」は、春爛漫(らんまん)。芽吹き、花ひらき、命に満ちた作品です。映画の一場面のような構図ですが、不思議とわざとらしさを感じさせないのは、この家族の喜びがまっすぐ伝わってくるからでしょう。お腹の中の赤ちゃんもすでに家族なのですね。

 審査員特別賞「歓びの舞」は、岩に砕け散る波と舞い上がる二羽の海鳥。一瞬を見事に捉えました。逆光の輝きがドラマチックな演出をしています。すべて計算されているのでしょうか。動物写真は偏りがちで、同類の発想に陥ってしまうことが多いのですが、撮影者の視線は魅力的ですね。

 審査員特別賞「穏やかな日」は、夕暮れ、一日の終わり。ご夫妻でしょうか。お互いを気遣うおふたりの表情が、強く伝わってきます。明るさも含めて、なかなか撮れそうで撮れない作品です。後方に続く道が画面構成に生きていて、おふたりの人生の歩みまで感じさせます。

 文部科学大臣賞「みんなでジャンプ!」は、おじいちゃんとお孫さんでしょうか。大人なのに本気でジャンプをする姿に、(あふ)れんばかりの愛情を感じます。それを見た子が真似をして、全身を使ってジャンプしようとしています。なんともいえないユーモアに深い温かさが加わって、物語を感じさせる作品です。

奈緒(俳優)
奈緒

 みなさんの感性に胸を打たれ、たくさん心を動かされました。実は選考中に涙してしまう瞬間があったほどです。「桜の木の下で」のように"誕生の幸せ"を感じる作品から、「熱烈大好き」のように"日常の幸せ"を感じる作品、「穏やかな日」のように"人生を重ねる幸せ"について考えさせられる作品まで、改めて1枚の写真が生み出すパワーを再確認することができました。

 厚生労働大臣賞「熱烈大好き」は、おじいさんとお孫さんでしょうか。お三方の表情がそれぞれ本当に楽しそうで、何気ない日常の中でこういう瞬間があることがどれだけ幸せなことなのかに改めて気付かされました。とてもユニークで可愛らしいタイトルも好きです。この場にいる誰もが笑顔だったに違いないと感じました。

 日本医師会賞「ちからをあわせて!」は、車椅子を押す3人の子ども達、そして見守っているのは先生でしょうか。子ども達も力を合わせてひとつの車椅子を動かし、そして大人も子供と力を合わせて生きているんだと感じられる1枚でした。人の優しさが(はぐく)まれていく瞬間を感じます。

 読売新聞社賞「桜の木の下で」は、見た瞬間に命が誕生することの愛おしさが伝わってくる1枚でした。何気なくお散歩をしていたらとても幸せな瞬間に出くわしたかのように自然で、色彩も美しく、桜色、黄色と家族でお(そろ)いの(さわ)やかな水色が素敵です。()からこぼれる温かい春の色は家族の心の温もりに重なっているようで笑みがこぼれました。

 審査員特別賞「歓びの舞」は、シンプルに浮かび上がる二羽のシルエットと水面の輝き、美しい構図にうっとりしました。タイトル通り、鳥たちがまるで歓びの舞を踊っているようですし、力強い波のしぶきとこの舞が重なる瞬間に出会えた撮影者の歓びも伝わってくるように感じました。

 「穏やかな日」は、ご夫婦の穏やかな1日を切り取った1枚でしょうか。後ろに続く道がまるでお二人が辿(たど)ってきた長い長い軌跡のように見えました。夕暮れもとても美しいです。何より、お二人のお互いを想い合うその表情がとても美しいと思いました。私も"穏やかな日"に辿り着くまでの山や谷を、愛する人と越えていきたいと願わずにはいられませんでした。

 文部科学大臣賞「みんなでジャンプ!」は、こんな瞬間が撮れたら家族で大笑いできますね。純度が高く写真のおもしろさを再認識できる写真でした。見事に高く飛ぶおじいちゃん、そしてこれから飛ぼうとしているお子さん。おじいちゃんの背中を見ながらスクスクと育ってほしいです。写真としても横たわる木がアクセントになっていて素敵です。

第7回エッセー部門

※タイトルをクリックすると作品が表示されます。

一般の部

厚生労働大臣賞
「命は続く」
松友 寛(愛媛県)
日本医師会賞
「天国からの贈り物」
坂野 和歌子(愛知県)
読売新聞社賞
「いずれの道」
西川 かつみ(京都府)
審査員特別賞
「よすが」
久保 紗佑実(和歌山県)
審査員特別賞
「余命宣告から三十年」
矢野 富久味(高知県)
入選
「後悔がつなぐ明日」
新澤 唯(千葉県)
入選
「今、そこにあるありふれた奇跡」
和田 つばさ(埼玉県)

中高生の部

文部科学大臣賞
「生命と私、それから皆」
山崎 恵里菜(埼玉県)
優秀賞
「僕は看護師の息子」
土井 倫太郎(愛媛県)
優秀賞
「言葉」
福島 悠楽(千葉県)
優秀賞
「祖母の「ありがとう」が聞きたくて」
奥田 杏(広島県)

小学生の部

文部科学大臣賞
「大切な命」
諸根 さつき(福島県)
優秀賞
「君がいてくれるから」
蛯原 丈翔(宮崎県)
優秀賞
「わたしのこと」
青山 栞奈(京都府)
優秀賞
「ながいきしてね、おおばあば」
大重 明花里(鹿児島県)

審査員からのひとこと

養老孟司(東京大学名誉教授/解剖学者)
養老孟司(東京大学名誉教授/解剖学者)

 例年、応募作品を読ませていただく。力の入った、心を動かす作品が多い。私自身は年寄りなので、感動が続くと疲れてしまう。作者の想いを、決められた字数の中で過不足なく表現するには技術が要る。淡泊な作品を期待するが、これはかなり欲ばった要求で、あまり強くは言えないと思う。今年も感動させられっぱなしで、いささか疲れてしまった。

玄侑宗久(作家/福聚寺住職)
玄侑宗久(作家/福聚寺住職)

 今年もさまざまな病気、介護、出産などについての文章を拝読し、「生命を見つめる」充実した時間を頂戴した。医師や看護師、介護士の方々が支える現場、そして一つの命を取り巻く無数の人々との関わりが、今も日本各地で行なわれていることを想うと、パレスチナのガザ地区の病院への攻撃に、つい叫びたくなる。

 人間が、有史以来すこしも賢くなっていないのは、まず間違いない。しかし私は、入賞作品を読み返しながら、人間の優しさや高邁(こうまい)さにも感じ入るのだ。縁によって鬼にも仏にもなれる人間の不思議さを、今年はとりわけ強く感じた。

水野真紀(俳優)
水野真紀(俳優)

 終わりの見えない紛争による死者数に心が麻痺(まひ)しつつある今、ご応募頂いた作品から励ましを受けたような気がします。

 わずか数グラムの原稿用紙、そして千何百文字が起こす奇跡とでも申しましょうか。作品に宿る生命の重みやぬくもり、、、それらが他人事から自分事へと昇華されるような、そんな感覚が生じるのです。様々なお立場の方の、心身のフィルターを通した奇跡でもあります。

 自分のためだけではなく、誰かを(いつく)しみ、認め、思いを()せる。自分を諦めず、誰かの可能性も諦めず最善を尽くす。多くの作品に見られる魂の交わりを感じて頂ければ幸いです。

 そしてよろしければ、、、貴方も来年「奇跡」を起こしてみませんか?

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