生命を見つめるフォト&エッセー

受賞作品

第5回エッセー部門

第5回入賞作品 − 小学生の部 
文部科学大臣賞

「やわらかいおむすび」

横山 紗来(12)兵庫県

「やわらかいおむすび」ってご存じですか。誤嚥ごえんがある人でもむせ込まずに飲み込めて、塩気が少ないのにおいしいおむすび。色々と調べましたが、そんなレシピはないようです。

 祖父には誤嚥があり、ご飯はいつも全粥ぜんがゆと七分粥の間位の硬さを食べています。おかずもやわらかくしたり、とろみをつけたりしていますが、上手うまく飲み込めずにむせ込み吹き出してしまうので、食事中は左手に折りたたんだティッシュを持ち、むせると口を押さえています。それでも飛び散らせてしまった時は、祖母に叱られてしょぼんとしています。

 休日の昼食に、私が家族の分のおむすびを作って「塩辛い」「これは丁度いい」などとにぎやかに食べていると、いつものやわらかいご飯を食べていた祖父が「おいしそうやなぁ。」とつぶやき、私を見て「上手くなったなぁ。」と言って笑いました。元料理人の祖父に褒められたのはうれしいですが、これを祖父に食べてみてとは言えません。時々むせ込みながら、黙って自分専用の食事をしている祖父を見て、「おじいさんでも食べられるやわらかいおむすび、作ってあげよう!」と思いつきました。

 祖父のご飯を、そのままの状態でおむすびにしたら団子になります。私は、祖父が薬を飲む時に使う服薬ゼリーをヒントに、水饅頭まんじゅうなどを固めるアガーを使うことにしました。これなら常温でぷるんと固まり、つるんとした食感なので、祖父が飲み込みやすそうです。

 味付けは悩みました。人工透析をしている祖父に塩味は禁物です。でも味を感じないと、ただの固めたご飯で、おむすびではありません。私が作りたいのは、祖父が「食べてみよう」と思って食欲が出てくるようなおむすびです。

 祖父は他にも持病が多く、が見えにくく、両耳は難聴でほとんど聞こえていませんが、よくテレビで古い時代劇の再放送やスポーツ中継を見ています。祖父によると、時代劇はパターンが決まっているから聞こえなくても話を想像できるし、自分が知らないスポーツ中継なら、ルールを覚えて楽しむことで脳トレにもなるそうです。脳内出血の後遺症で左足はマヒしていますが自分の足で歩きたくて、短い距離をつえをついてゆっくりと散歩したり、無理のない範囲でストレッチをしています。

 そんな祖父が喜びそうな味付け、私はだしのうま味を使ってみることにしました。お米に細かく切った野菜と肉を入れ、減塩だしで炊き込みました。これをふちを残しておむすびの型に入れ、上からアガーを注いで固めると、やわらかいおむすびができあがりました。

 祖父は一口食べると、「おいしい炊き込みご飯やけど、お茶碗ちゃわんに入れて。」と言い、皆でずっこけて大笑いしました。私は笑いながら楽しそうに食べている祖父を見て、これはこれでよかったのかなぁと思いました。でも、「やわらかいおむすび」作れないかなぁ?

(敬称略・年齢、学年などは応募締め切り時点)
(注)入賞作品を無断で使用したり、転用したり、個人、家庭での読書以外の目的で複写することは法律で禁じられています。

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