生命を見つめるフォト&エッセー

受賞作品

第3回エッセー部門

第3回入賞作品 − 小学生の部 
最優秀賞

「ふんばる力の源は?」

横山 紗来(10)兵庫県

 おじいさんの朝は、目覚めてすぐの「あいうえお発声」で始まります。次はベッドに座り、自己流乾布マッサージをしてから着替え。そして、つえをついてゆっくりと歩いて食卓へ。朝食の一口を、よくかんで、しっかりと飲み込み、食後は10粒程のお薬を、1粒ずつスプーンに置いた上に服薬ゼリーをかけて飲み、同時に目薬もさします。それから、また杖をついて洗面所に向かい歯みがき、排便。終わると食卓に戻って血圧を測ります。ここまで、調子が良くても2時間はかかります。

 健康なら、朝の身支度に30分はかからないと思います。でも、わたくしのおじいさんには、脳内出血、心不全などの既往歴があり、今も、色々な病気とつき合っています。人工透析は今年で25年目ですし、目は年々見えにくくなり、耳もほとんど聞こえず、家族ではわたくしとおばあさんの声なら、何とか聞きとれています。左足にはマヒがありますし、ごえんもあるので、食事に時間がかかります。

 そして昨年は、右足が閉塞へいそく性動脈硬化症にかかり、激しい痛みともつき合うことになりました。お医者様には、どうにもガマンできないなら、足指切断しかない。感染症の心配と、何より歩けなくなるから、ガマンできるところまでがんばってとはげまされ、おじいさんは必死でガマンし続けました。そんな時、左足まで発症したのです。両足をおそうあまりにひどい痛み。「もう、しんぼうたまらん」というおじいさん。わたくし達は、覚悟して病院へ行きました。

 検査を終えて診察室に入ると、お医者様はおじいさんの右足を見て「ん!?」という顔になり、じっくりと触っていました。そして、満面の笑みで「おそらく好転反応です!」と、おっしゃったのです。以前、右足人差し指をケガしましたが、血流が悪すぎてかさぶたもできず、2㎜くらいの穴が開いたままの傷に、滲出しんしゅつ液が出てきている。足の甲の血管は細すぎてカテーテルは踵までしか通せていないのに、足先がちゆしようとしているなんて、本当にまれなことですとうれしそうに教えて下さり、おばあさんとわたくしが交互に伝えている間おじいさんの手を握って「がんばりましょう。やりましょう」と、声をかけて下さいました。

 おじいさんは、人間「〜したくない」ではできない。「〜したい」と強く思えばがんばれる。自分は「欲」があるから、ふんばれる。「わしは歩きたい!」と、治療を選びました。

 そこで悩んだのは、くつ下です。つま先にある横一線の縫い目がケガの場所と同じで、いつも当たってこすれます。母とわたくしは、リンキングという特殊なぬい目のくつ下を、大阪で見つけました。ぬい目が当たらず、歩きやすいと、おじいさんは喜んでくれました。

 でもこの間、わたくしはおじいさんに雷を落としました。隠れて落花生を食べむせたのです。全く、この「欲」だけは困りものです。

(敬称略・年齢、学年などは応募締め切り時点)
(注)入賞作品を無断で使用したり、転用したり、個人、家庭での読書以外の目的で複写することは法律で禁じられています。

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