生命を見つめるフォト&エッセー

受賞作品

第2回エッセー部門

第2回入賞作品 − 中高生の部 
最優秀賞

「母の生命いのちが遺したもの」

石戸 佑妃(15)秋田県

 5年前、私はとてもつらい経験をしました。それは、私のことを大切に、愛情込めて育ててくれた大好きな母が天国に行ってしまったことです。

 私が小学校1年生の時、母に大きな病気が見つかりました。がんでした。しかもすでにステージ4で完治する確率が低い状態でした。

 しかし、幼かった私は、がんの恐ろしさを知らず、治療すればすぐ治るだろうと思っていました。がんがとてつもなく重い病気だと知ったのは、もっと後になってからです。

 がんと知らされてからも、母は、私や姉の前では何事もなかったかのようにいつも通り元気に笑って過ごしていました。今思うと、それはすごいことだと思います。もしかしたら、私たち娘のいないところでは辛く、悔しい思いをしていたかもしれませんが、母はそんな姿を全く見せませんでした。その時の母の気持ちを思うと今でも涙があふれてきます。

 がんが見つかってから母はすぐ入院し、手術を受けました。私は、手術をしたからもう安心、と思っていましたが、がんとの闘いは手術後からが壮絶でした。抗がん剤の副作用で髪が抜け始め、体調の悪い日が続きました。

 その頃私は、学校のない週末にしかお見舞いに行けませんでした。母が家にいなくて寂しい日が続いていたので、会えるのがとても楽しみでした。母もとても喜んでくれました。その笑顔を見ると、ほっとしました。

 この年の3月、東日本大震災がありました。秋田は震度5強、それまで経験したことがない強い揺れでした。父は仕事中だったので、私と姉は児童館にいて地震に遭遇しました。他の子たちと一緒に体育館に避難した後、友達のお母さんに迎えにきてもらい、母のいる病院に向かいました。病院に着くと、中は全て停電していました。それで、母のいる7階まで階段を上りました。母はとても驚いていましたが、互いの無事を確かめて、とてもほっとしました。

 後で、看護師さんから聞いた話によると、地震直後、母は私たちのことをとても心配して、自力で家に帰ろうとしていたそうです。私はその話を聞いたとき、胸がいっぱいになり、涙が止まりませんでした。

 その後、母の病状は落ち着き、退院して家に帰ってきました。とてもうれしかったです。いつも通りの生活が戻り、母のおいしい料理を食べられて幸せでした。家族で湯沢の稲庭うどんを食べに行ったり、竿燈かんとうたり、田沢湖にも行きました。学校の行事や授業参観にも来てくれました。本当にうれしかったです。そのことは今でも感謝しています。

 幸せだった2年半はあっという間でした。母にがんが再発しました。しかもがんはいろいろなところに転移していました。術後の抗がん剤治療で、せっかく生えた髪はまた抜け、それまで見たことがないような機械が、ベッドの周りにたくさん増えていきました。私は、腰の痛みを訴え辛そうにしている母を、さすってあげることしかできませんでした。病状はさらに悪化し、トイレにも行けなくなり、車いすで移動する生活になり、時々痙攣けいれんを起こすようになってからは、私にはもう何も助けてあげることができませんでした。

 その頃、父と母は医師から余命3か月、と宣告を受けました。私と姉はその場にはいませんでしたが、後で医師から、
「あと3か月くらいかもしれないから、残りの時間をできるだけそばにいてあげて。」
と言われて、信じたくない気持ちといろんな感情がこみ上げてきて、病室の前で泣き崩れました。

 後で父から聞いたのですが、余命宣告を受けたとき、母は、医師の前で、
「絶対に治してみせます。」
と言ったそうです。

 私はその話を聞いたとき、母をすごい人だと心の底から思いました。世界にこんなかっこいいお母さんは私のお母さんだけじゃないか、と思いました。そして、自分も母のように強くなりたいと思いました。

 1か月後、母は旅立ちました。私が病院に駆けつけたとき、母は息を引き取る直前で、
「お母さん、お母さん。」
と声をかけても、返事はありませんでした。でも、最後の最後まで一生懸命病気と闘って、生きようとする気持ちが伝わってきました。かっこいいお母さんでした。大好きです。

 お葬式で、私は一生分の涙を流しました。立ち上がることができませんでした。

 それから5年ち、ようやく母のことを話せるようになりました。私はお盆や命日以外、仏壇に手を合わせることをあえてしません。母はそこにはいない、私の心の中にいる、と思うからです。これからもずっと母が近くで見守っている、辛いこともあるけれど、前向きに、笑顔で、何事にも一生懸命、諦めずにがんばっていきたいと思います。母が私にのこしたもの、それは強く生きる「生命いのち」です。

(敬称略・年齢、学年などは応募締め切り時点)
(注)入賞作品を無断で使用したり、転用したり、個人、家庭での読書以外の目的で複写することは法律で禁じられています。

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