生命を見つめるフォト&エッセー

受賞作品

第6回エッセー部門

第6回入賞作品 − 一般の部 
入選

「Every day is a GIFT」

秋澤 真希子(38)埼玉県

 念願の初めての妊娠。何をしていても味わったことのないような幸せや奇跡を感じる人生で最も特別なひと時になると思っていたのに......。

 妊娠4ヶ月。悪阻つわりまっただ中に突然やってきた奥歯の痛みと上歯茎に見つけた柔らかい突起物。歯痛は妊婦にはよくある症状だからと思って様子を見ていても、痛みは日に日にどんどん強くなっていくばかり。近くの歯科から念の為にと紹介してもらった大学病院に行っても、安定期まで大きな検査はできないとの判断で対症療法だけして不安なまま過ごした数週間。おそらく問題無いでしょうと言われていたのに、ようやく安定期に入って行った検査でまさかのステージ4の悪性腫瘍しゅようだと分かり、しばらく現実だと信じられず、ましてや自分のことだとは受け入れられなかった。

 今まで大きな病気をしたことのない私ががん? しかも末期? よりにもよってなんで今なの? お腹の子はどうなるの? 子どもか自分か、どちらかを選ばなければいけなくなるの?

 さらに手術は赤ちゃんと一緒に全身麻酔をして、上がくの半分を歯とともに大きく切除するもので、大きな義歯を使用することになり、今までと全く同じように話したり食事したりはできないだろうとも言われた。歯と顎が無いって......手話で話すの? 子どもに子守唄も歌ってあげられないママになるの?

 どんどん大きくなる不安と無限に膨らむ悪い想像を何とか必死にコントロールするために、とにかくインターネットで情報収集する日々を送った。がんについて、手術について、術後の生活について、妊娠中のがん発覚、手術、投薬。そもそも上顎のがんでも非常に珍しいものだったこと、そして妊娠中の手術例が少ないこともあり、調べても調べてもほとんど満足な情報が得られず、とにかく様々な先進医療が可能な病院を急いで訪ね、手術のリスクと術後の生活の質について考えられる可能性を全て出して、結局手術を行うことを決心した。

 妊娠7ヶ月。手術室に入ると、執刀してくださる口腔こうくう外科の先生と共に、産婦人科の先生も来てモニターで赤ちゃんを確認してくれて、「赤ちゃん、元気だからね。」と言ってもらってそのまま全身麻酔で意識が遠のいた。次に目が覚めた瞬間にはもう手術が終わっていて、尋常じゃないのどの痛みと上手く声を出せないことに驚き戸惑いながらも、「赤ちゃん大丈夫だからね。安心していいからね。」と耳元で先生が言ってくれたことは今でもはっきり覚えている。猛烈な痛みと麻酔で意識が曖昧あいまいな中、ドンドン! グリグリ! とお腹の赤ちゃんが力強く蹴り、激しく動き回り、「僕が一緒だから大丈夫だよ! ママがんばれっ!」と大きな胎動で励ましてくれているかのように感じて、心からの安堵あんどと喜びで涙が止まらなかった。    

 術後は喉近くまで切除したことで痛みが長引くものの、妊娠中なので痛み止めのお薬も飲めず、ただただ泣きながら痛みと辛いリハビリに耐える毎日だった。それでも、入院中毎日のように声をかけて、何度も何度も細かく義歯を調整してくださる先生方の心遣いにも救われた。何より、この子がいなければ耐えられなかったかもしれない、この子のためにも強くならないといけない、しっかり治してこれからも元気に育ててあげないと、という母親としての自覚、母親としての強さが確かに自分の中で大きく芽生えていくのを実感した。

 手術をしてからもうすぐ4年になる今も、病院には定期的に通っていて、これからも再発や転移の心配はずっと消えることはないけれど、それでも無事に我が子を出産でき、こうして自分の手で我が子を抱きしめ子育てできていることは何よりの幸せで、奇跡でしかないと心から思う。子育て中の目まぐるしい日常の中では、自分ががんサバイバーであることすらふと忘れてしまいそうになることもあるけれど、今こうして笑って過ごせていることが決して当たり前のことではないということをがんのおかげで気づくことができた。がんが母としての私を強くしてくれたこと、そして毎日が贈り物であることに日々感謝をしながらこれからも生き続けていきたいと思う。

(敬称略・年齢、学年などは応募締め切り時点)
(注)入賞作品を無断で使用したり、転用したり、個人、家庭での読書以外の目的で複写することは法律で禁じられています。

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