受賞者紹介

【第74回】文部科学大臣賞作品紹介(要約)

読売新聞紙面に要約して掲載した、文部科学大臣賞受賞作品を紹介します。(敬称略)

中学校

出逢い

中国・青島日本人学校中学部 3年
カマ初音ハツネ

 恩師、という言葉の概念は、そのような人と出会ってから、わかるものなのかもしれない。三人の先生方に出会った後、それを痛感した。小中一貫の日本人学校での三つの出会いは、いつも細やかにきらめきを放つ。
  ◇広がる星空
 小6になったばかりの時。教室に入ってきた新しい算数の先生は長身で、細い目には光が宿っていた。一回で、先生の授業の興味深さは知ることができた。
 中1でも先生の授業を受けた。教科書の内容にプラスし、解き方や少し発展した内容を教えてくれた。中学の数学は、数学の世界のまだ始まったばかりの部分かもしれない。それでも先生は、その世界に広がる星空が美しいことを教えてくれた。
 読書が好きな私は、先生に好きな本も教えてもらった。数冊は、私の一番好きな本になっている。中1が終了し、先生は定年退職した。
  ◇降り積もる時間
 その理科の先生は博識な方だった。小6と中1の2年間、教わった。先生は、実験を先入観を持って行わなかった。結果が教科書と異なっても、そのまま記録し、教科書の内容を学習した後に原因を共に分析した。この実験との向き合い方や学習の仕方を、私は大切にしている。
 先生は、要点をまとめたスライドを作ってくれて、私達も、タブレットをノートの代わりに使った。先生の授業は、そんな新しさを備えていた。
 中1が終了すると、先生は帰国した。塩化アンモニウムの実験で共に見た、結晶の降り積もるように、雪の降るように、共に過ごした時間は、静かに心の中で燦(きら)めいている。
  ◇言葉のキャッチボール
 その先生は折に触れ、私達を笑顔にしてくれた。小6の1年間、国語を教わった。先生は説明しにくい質問を、度々投げかけてきた。あるとき「しっかり分かりました」と書いて「『しっかり』とは、どう分かったんですか?」と質問された。聞かれた時、答えられるようにする必要があると先生は言った。それがこれから求められる、と。先生から質問されない文章を書くことが、目標になっていた。
 先生は黒板にイラストを描き、解説することが多くあった。過去のノートを開けば、写したイラストが散りばめられているだろう。何気なく、愛(いと)おしく。
 
 なぜ、教科も教え方も違う3人の先生方に、私は深く尊敬の念を抱いているのだろう。先生方が、思い込みや経験にとらわれず、目の前の生徒を真に理解してくれたからだろう。その上で、沢山の話をし、関わってくれた。私は、区切りや制限のない、無限に広がる学問の奥深さと、面白さを学んだ。
 今だって鮮やかに甦(よみがえ)るのだ。数学の先生が、夏至だなあと言って笑った、向日葵(ひまわり)のような笑顔が、日付を書いた黒板のチョークの粉の白さが、教室に差し込んでいた、透明な日の光が。

読後に幸福な気持ち

 あざやかな描写と思慮深い言葉選びによって、三人の恩師の姿が読み手の心の中にくっきりと立ち上がってくる。そして、読み進めていくうちに、同じ相手であっても、日々、新鮮な出会いがあることに気づく。読後、幸福な気持ちになるのは、人間を肯定的に見ようとする作者の姿勢の美しさゆえだろう。(梯久美子)

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