受賞者紹介

【第74回】文部科学大臣賞作品紹介(要約)

読売新聞紙面に要約して掲載した、文部科学大臣賞受賞作品を紹介します。(敬称略)

小学校高学年

ハンデを個性に変えて

埼玉県・越谷市立千間台小学校 6年
内田ウチダ大輝ダイキ

 ぼくは野球を習っている。メジャーリーグで活やくする大谷翔平選手を見たからだ。毎朝勇気をもらっていた。ぼくは、生まれつき軽い脳性麻痺(まひ)で、右手と右足に麻痺がある。でも習ってみたいと、父や母に伝えると心配している様子だった。ぼくは一瞬、やらない方がいいのかと考えたが、もっと自分に自信をつけたいと強く思った。すると、父も母もまず体験してみようと言ってくれたのだ。
 体験当日。バットのスイングに勢いが出なかった。コーチに「右手を返せていないからだよ」と言われた。麻痺のため、右手首はとても動かしづらい。でもコーチは「頑張って練習しよう」と勇気を与えてくれ、ぼくは本格的に習うことに決めた。
 それから、毎週野球をした。Wコーチがよく指導してくれた。ぼくは左利き。右手にグローブをはめ、左手でボールを投げるが、力の入らない右手では、グローブを上に向けボールをキャッチすることが難しかった。Wコーチは「下に向けて捕ることを完ぺきにしましょう」と言ってくれた。しかし、現実は甘くなかった。練習の時にフライがどうしても捕れなかった。外野のノックでも、打球は手前でバウンドし、後ろにそれていった。
 ある日の練習試合で「レフト守ってね」と言われた。三回表に、レフトに軽くバウンドしたボールが来た。止めることができた。今度はフライが飛んできた。走ったつもりだったが、後ろにぬけていってしまった。
 次の練習試合もレフトを守った。練習をたくさんやった。報われてほしいと思った。三回表、少し強い打球が飛んできた。しっかりグローブを開いた。見事にボールが入っていた。内野陣もコーチ、かんとくも「大輝すごいぞ」と言ってくれた。麻痺があっても試合に出て、アウトをとれたのだ。そして、周りの歓声。初めてこれを味わった。
 梅雨に始めた野球だったが、冬へ近づいた時、Wコーチにもらったアドバイスが衝撃的だった。「左手にグローブをはめてボールを捕り、グローブを外して左手で投げることに挑戦してみよう」。Wコーチは新たな提案で、ぼくにチャンスをくれた。
 その日早速、練習をした。捕れた時「パチッ」という音が鳴った。痛みの感覚もうれしかった。グローブを上や下に向けて、自由自在に野球ができる。ぼくにとって転機の訪れだった。
 次の週、ファーストに挑戦してみようと言われた。こんな重大なポジションを守らせてもらうとは思っていなかったので、気合いが入った。今では、ピッチャーにも取り組んでいる。
 麻痺という障がいを持つが、そのことがまさにぼくの個性を作っている。ハンデがあるからこそ、話を良く聞き、努力や工夫をし、ルールや戦術を良く理解し、チームにこうけんしようとしている。必死に努力をしていれば、必ず誰かが自分のがんばりに気づいてくれる。これからも野球を続け、不可能を可能にする努力を続けたい。

誰にも負けない情熱

 脳性麻痺で右手右足にハンデがありながら、大谷翔平選手に憧れて野球を始めた内田君。壁を一つ一つ乗り越えていく姿からは、誰にも負けない野球への情熱が伝わってきます。麻痺というハンデが内田君の個性を作り、数々の壁を乗り越える原動力となっているのですね。希望と勇気をもらいました。(山口茂)

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