受賞者紹介

【第73回】文部科学大臣賞作品紹介(要約)

読売新聞紙面に要約して掲載した、文部科学大臣賞受賞作品を紹介します。(敬称略)

小学校高学年

小さな海

兵庫県・小林聖心女子学院小学校 6年
追川 ゆり

 あなたは「小さな海」と聞くと、何を思い浮かべるだろう。私はこの夏、小さな海を見つめ、考えをめぐらせた。航海のようだった。
 私は夏休みの宿題で、毎年、自由研究に一番苦労する。今年、考えたテーマは「涙について」だ。理科で「人のからだのつくりやはたらき」を学び、呼吸、消化、血液の循環などの仕組みを学んだ。そこでふと思った。「涙って何だろう」。呼吸でもない、消化でもない、血液でもなさそう。
 涙が血液と同じ成分であったことに私はまず驚いた。血の色をしていないのは、血球が除かれているからだ。
 涙が出る仕組みや成分について調べ、涙が塩からいのは、ナトリウムが含まれているからだと知った。家にあった、料理の塩分を測るデジタル塩分計で計測してみることにした。
 実は私は、あまり涙を流すタイプではない。家族の中で一番涙もろい母に協力してもらった。母に、デジタル塩分計を家の中でも常に持ち歩いてもらうことにした。研究のために、母が涙したきっかけ・その時の感情についても詳しく質問し、記録していった。私は、母の新たな一面を色々と知ったと思う。
 母は、テレビのアイドルオーディション番組を見ながら「この人たちがんばっているわね」と泣いたり、アニメ映画で「かわいいわね」と泣いたり、泣きのポイントは計り知れない。
 一番印象に残っているのは、私が自宅でピアノを練習していた時のことだ。なかなか弾けなかったところを弾けた時、母はキッチンで優しい顔をしながら涙していた。「たくさん練習していたよね」と言ってくれた。毎日の私の様子をそっと見てくれていた温かなまなざしを感じて嬉(うれ)しかった。母の涙は、どの場面でも、母性や愛情というものが、根底にあるように思えた。
 涙の研究をする上で、感情はどう分類できるのか、調べてみた。アメリカの心理学者のプルチックの「感情の輪」では、人間の感情は大きく8つ(喜び・悲しみ・怒りなど)に分けられる。それを絵の具の基本色のように考え、混ぜ合わせ新しい色を作るようにたくさんの感情が存在するというものだ。感情の強弱は、色の濃淡で説明されていた。
 私の研究では、涙した時の感情を分類したところ、心の奥深くから湧いてきた強い感情で流した涙の方が、塩からくなる結果が出た。もっと細かい数値で計測して、涙の成分も細かく分析できたら、感情ごとに涙のパターンを解明できるのではないかと予想した。
 素朴な疑問から出発した自由研究を通して、私は、母の涙、人の感情を見つめて旅をするかのように、考えをつなげていった。もし、あなたの近くで泣いている人がいたら考えてみてほしい。その小さな海のむこうに何があるのかを。

感情と涙の濃度分析 画期的

 家にあるデジタル塩分計で、お母さんの涙の塩分濃度を測るという発想に「そうきたか!」と感心しました。さらに画期的なのは、涙を流した時の気持ちを聞き取り、感情と涙の塩分濃度の関係を分析したこと。身近な人への愛情と、作者の行動力・思考力が結びついて、すばらしい知的探究の旅になりました。(梯久美子)

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