貧は我が家の福の神
2019年度の冬、新型コロナウィルスがはやり、ぼくの家は貧乏になりました。イベントの仕事をしている父の仕事が少なくなったからです。ぼくは私立小学校に通っています。もしもあの時、校内一貧乏決定戦が開かれたら、間違いなくゆう勝していたと思います。ゆう勝して手に入れたもの、それは「貧は我が家の福の神」という精神でした。
毎日おそくまで働いて会えなかった父が、急に家にいるようになりました。ぼくは幼児教室と合気道という二つの習い事をしていましたが、幼児教室をやめることにしました。
2020年、僕の家はどんどん貧乏になりました。母のちょっとかわった節約料理が増え、それを楽しみました。ぼくには3つ上の兄がいます。語学に力を入れる私立小学校に入学した兄を見て、同じ学校へ行きたいと思っていました。けれど、生活を考えれば言い出せませんでした。
もう一つぼくの受験を難しくしていることがありました。ぼくは舌小帯が下あごについていて発音がよくありませんでした。語学の学校へ通うとなると舌小帯を切った方がよく、ぼくは悩みました。
2021年、貧乏生活は、いつの間にかむだを見つけると面白いと思う生活へと変わっていきました。欲しい本は中古店で安く買ったり、図書館を利用したりしました。兄と節約の競争をし、じまんしあいました。
ほしい物が、不思議と少なくなりました。けれど、どうしてもあきらめられないものがありました。兄と同じ学校へ通うことでした。
舌小帯を切ると母に話をすると、母は、はじめ反対をしていました。手術をしてもすぐに舌が動くわけではなく、苦労すると思ったからだそうです。それでも行きたいと伝えると、「努力をおこたらない」を条件に許してもらいました。
この日から、ぼくは一生けん命英語の勉強をしました。母といっしょに勉強をし、入学前に英検を四級までとることができました。
手術当日、覚悟を決めていたはずなのに、こわい気持ちでいっぱいになりました。でも、手術の間ずっと母が手をにぎっていてくれたのでのりきれました。舌のトレーニングを毎日し、ぼくは口の周りに付いたケチャップをなめることができるようになりました。
2022年、兄と同じ学校へ入学しました。持ち物は、全て兄のお古でしたが、気分はピカピカの一年生でした。2023年、父の仕事も少しずつ戻り、家にいない時間が増えてきました。学校や合気道へ通い、好きな本を読み、三食食べられ、ぼくの生活は豊かさであふれています。それに気づくことができたのは、貧乏節約生活があったからです。貧乏を乗り越えて気づいたことをこれからも大切にしていきたいです。
苦境乗り越え得た姿 感動
まず題名にひき付けられました。コロナ禍の影響で家族の生活が苦しくなり我慢を強いられる中、兄弟で節約競争をする姿、手術を決意し、目標を実現する作者の姿に深く感動しました。苦境を乗り越え手に入れた、たくましさや多くの気づきが作者にとっての「福」なのですね。すばらしい作品です。(山口茂)