受賞者紹介

【第72回】文部科学大臣賞作品紹介(要約)

読売新聞紙面に要約して掲載した、文部科学大臣賞受賞作品を紹介します。(敬称略)

中学校

姉からの挑戦状

栃木県・佐野日本大学中等教育学校 3年
齊藤さいとう綾香あやか

「純ちゃん、前期の試験終わったって。帰ってくるよ」
 姉は昨年春に歯学部の大学生になり一人暮らしを始めた。5歳の年の差は感じなくなり、一番身近で何でも話すことのできる存在だった。
 姉は少しやせていた。「お腹(なか)痛い。横になれない」。昨年8月13日夜、姉は顔をゆがめた。翌朝、大学病院で受診。帰ってきた両親は小さく見えた。
 「純ちゃんね、お腹に大きな腫瘍があるんだって。先生がすぐに手術したほうがいいと、明日、検査するって」。手術当日。20センチ以上の腫瘍をとったが、残った部分がある。
 病院からもどって来た姉の表情は優しかった。「大丈夫だよ」とほほえみ、私たちは励まされた。9月7日、姉はまた入院した。担当医から「ユーイング肉腫という希少ながんだろう」と連絡が入る。翌10日、国立がん研究センターに転院。心の中で何度もつぶやいた。「良くなるように応援してるからね」。22日、まれながんのさらにまれなもので、有効な治療法が確立されていないそうだ。
 10月20日、姉が帰って来た。「歯学部の学生だって言ったら(歯科の先生たちが)喜んで、ここで一緒に働くのを楽しみにしてるって言うんだよ」。姉は楽しそうに話した。こういう時間が大切に感じられた。母も「看護師さんが言ってくれたの。『純香ちゃんのお部屋に来るの、争奪戦ですよ』だって」。支え、励ましてくれる人、関わる全ての人を大切にするから、姉を気にかけてくれる。姉は病院も居心地良い場所にしていた。
 10月29日、私の誕生日だ。「おめでとう。お母さんと選んだ」と、姉はプレゼントしてくれた。ペンケースとブラシ、バッグにつけてつかう時計。「お下がりのペンケースを使っているから、気になってたんだ」。すごくうれしかった。夜は川の字で寝た。「きっと良くなるよ」。姉の言葉に元気をもらって眠りにつく。
 今年2月18日、担当医から「今までの薬が効かない細胞が大きくなってきました。抗がん剤を変えましょう」と連絡。「今、みつけてもらえて私やっぱり強運なんだよ」。「少しでも良い方へ向かおうというモチベーションにどれだけ救われているか。本当にすごいお嬢さんです」と、母は先生から言われたそうだ。
 4月13日、姉の心臓は止まった。「綾がいてくれて、本当に良かった」。直前まで、姉は私を気にかけてくれた。姉の病気の原因はわかっていない。「もっと勉強して、綾がみつけてみなよ」。姉からの挑戦状だ。突発的に病気に見舞われた人の力になりたい。いつか姉からの挑戦状に答えを出せる日が来ることを願う。
                                            (個人応募)

闘病の姉から多くを学ぶ

 歯科医を目指していた綾香さんのお姉さんは、難病を患い、闘病生活の末に亡くなりました。綾香さんは、痛みに耐えながら明るさを失わない姉の姿から多くのことを学び、考えます。そして、「姉は私に病気の原因を突き止めてほしい」と願い、「挑戦状」を託したと受け止め、力強く歩いていこうと決意しました。
                                         (新藤久典)

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